No.1 “50の建築、50の外壁” プロローグ 今春、日本ビソー株式会社の外壁関連資料の一つとして建築の外壁写真パネル50点を制作しました。
 日本ビソー株式会社の外壁関連資料の一つとして建築の外壁写真パネル50点を制作した。
選んだ50の建築は、どれも日本とヨーロッパの19世紀後半から20世紀にかけての近代建築の発展の中で、興味深い外壁をつくり出した作品ばかりである。この50作品を見るだけでも、現代の建築の原点である近代建築、すなわちモダンな建築の外観や外壁のことが十分に理解できるだろう。そこでこのエッセイでは、制作した外壁写真を材料に、改めてモダンデザインという視点から近代の外壁を詳しくみていこうと思う。

 ところで、建築の外壁デザインを鑑賞していく上での幾つかのポイントがある。
たとえば素材に着目してみるのはどうだろう。石やレンガや木、テラコッタやタイル、塗り壁やコンクリート、そして鉄やガラスといった多くの素材で、近代建築の外壁はつくられている。素材によっては、ある限られた時代や地域にのみ用いられたものがある。息の長く、かつ世界的な広がりの中で使われ続けているものもあるだろう。デザインを見ていく上で、それら時代性や地域、社会性に思いをはせることは、外壁に対しさらに深い理解をもたらせてくれはしないだろうか。

 色彩に注目するのも良いかもしれない。というのも現代の、とりわけ超高層ビルの外壁は、巨大なガラス面による淡い水色か灰色という共通性を持っているが、その色彩感覚はいつ頃登場してきたのかを探ることができるからだ。少なくとも近代建築の外壁は、素材の多様性に基づく、このガラス色も含めた多くの色彩から成り立っていたのである。

 そうした点をふまえて、50の建築の外壁デザインに関して、以下の13グループに分けてこれから考えていこうと思う。

1. 日本洋風外壁事始め
幕末から明治初めに登場した尚古集成館など、日本の洋風外壁のファーストステップ

2. アール・ヌーヴォーの冒険
ブリュッセルの街並みやオルタ邸などに見る、素材や外観デザインの冒険的試み。

3. 美しい窓割り
外壁に欠かせぬ窓を、近代の建築家たちはどうデザインしたかを探る。

4. 装飾的外装タイル
ガウディのカサ・ビセンスなど、石造建築の伝統を受け継いだ外壁表現としてのタイル使い。

5. モダンデザイン・タイル
現代建築のタイル外壁の直接の根っこは、明治時代の物産横浜ビルにあった。

6. 日本の様式建築
古代ギリシアに端を発する様式デザインを、日本はどう消化してきたか。

7. ライトとテラコッタ
帝国ホテルの建設で、ライトはスクラッチタイルとテラコッタの外壁表現を日本に残した。

8. 多様なレンガ外壁

表現主義やガウディなど、レンガを自在に扱った外壁。

9. 石壁 1
西洋建築の基本的素材である石は、どう近代に生き残ったか。

10. 石壁 2
ワーグナーの板石張りなど、石は外装被覆材として現在に至る。

11. 塗り壁
打放しコンクリートは、近代の到達した究極の塗り壁か。

12. ガラス外壁の系譜1
工業化以前の、ミラノのガリレアなど、手づくりガラスによる大胆なガラス表現を追う。

13. ガラス外壁の系譜2
現代建築に直結するバウハウスのカーテンウォール。
 以上の13題に即して近代建築の外壁を私なりに解説していこうと思うが、まずはこのサイトをご覧の皆様にも、じっくりと取り上げた外壁の写真を見ていただきたい。なるほどきれいだ、手が混み過ぎている、メンテが大変そう・・・等々自由な感想を持っていただき、できればそれをフィードバックしていただきたいと思う。
第一話「日本洋風外壁事始め」はこちら エッセイ壁 インデックスへ戻る